Climate Change and Conflict エリシア・ハロウド‐コリブ&マーガレット・ヤン  |  2023年07月28日

海洋法で小島嶼国を気候変動から守れるか?

Image: Nava Fedaeff/shutterstock.com

 本稿の初出はThe Conversationで、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下に再掲載しています。

 気候変動は、太平洋やその他の地域の小島嶼開発途上国に大きな被害をもたらすと考えられる。海面上昇によって水没する島もあるだろう。これらのコミュニティーは、これまで以上に異常気象、進行する海洋酸性化、サンゴの白化、漁業への悪影響に直面している。食料供給、人の健康、生計も危機に瀕している。その責任の大部分は、化石燃料を燃やしている他の国々にあることは明白である。

 とはいえ、島嶼国は才覚を備えている。彼らは、気候変動への適応策を講じるだけでなく、司法の助言も求めている。国際社会は海洋法に基づき一定の法的義務を負っている。海洋法は、海洋を海域に分けるとともに、一定の自由と義務を認める規則や慣習である。

 そこで島嶼国は、気候変動に対処する義務が国連海洋法条約に含まれ得るのではないかと問うている。国際的な気候交渉において海洋に関する問題にはしかるべき注意が向けられていないため、これは特に重要な動きである。

 海洋環境にダメージをもたらす温室効果ガス汚染を抑制する具体的義務を各国が有するのであれば、これらの義務に対する違反には法的結果が生じることになる。いずれ、小島嶼国が受けた損害に対して賠償を受けることもあり得る。

 国際海洋法裁判所は、国連海洋法条約によって設立された独立司法機関である。同裁判所は、条約の解釈または適用に関する紛争、および裁判所に回答を要請されるある種の法的質問に対して管轄権を有する。これらの質問に対する回答は、勧告的意見として知られている。

 勧告的意見は法的拘束力を持つものではなく、法的問題に関する権威ある声明である。それらは、国家や国際機関に対し、国際法の実施について指針を与える。

 同裁判所は、これまでに二つの勧告的意見を出している。深海底における採掘違法、無報告、無規制の漁業活動に関するものである。これらの手続きでは、国家、国際機関、そして世界自然保護基金(WWF)のような非政府組織から陳述書の提出があった。

 2022年末、新たに設立された「気候変動と国際法に関する小島嶼国委員会」は、同裁判所に勧告的意見の要請を提出した。海洋環境への影響を含む気候変動に対処する国家の義務に関する要請である。

 同裁判所には、国家や機関から、彼らがどのような対応を取るべきかに関する見解を述べる50件以上の陳述書が提出された。これらの陳述書、なかでもオーストラリアニュージーランドによる陳述書が、近頃公開された。

 海洋法は気候変動を規制するメカニズムとして作られたものではないが、その権限は、気候と海洋の関連性を検討するには十分なほど幅広い。これを立証するためには、この40年の歴史を持つ枠組み合意を、公海におけるレジリエンスを強化する義務など、世界情勢の変化や法の変化という観点から解釈しなければならない。これを実現する一つの方法が、同裁判所による勧告的意見の発行である。

 同裁判所に提出された質問は、以下のために締約国が負う具体的な義務は何かというものである。

(a) 大気中への人為的な温室効果ガスの排出に起因する海洋の温暖化、海面上昇、海洋酸性化などの気候変動から生じる、または生じる可能性のある有害な影響に関連して、海洋環境の汚染を防止、軽減、規制するため。

(b) 海洋温暖化、海面上昇、海洋酸性化などの気候変動の影響に関連して、海洋環境を保護および保全するため。

 この質問には、国連海洋法条約の具体的文言が用いられている。それらは、裁判所がその意見において条約のいずれの条項を参照すれば良いか、手掛かりとなる。

この質問では、条約の「海洋環境の保護および保全」と題する部分に明示的に言及している。この部分は、海洋環境を保護および保全するという締約国の一般的義務と、「汚染を防止、軽減、規制する」措置を定めている。また、締約国に対し、損害や危険を移転してはならず、ある類型の汚染を別の類型に変えてはならないと求めている。

 海洋環境の汚染は、条約で次のように定義されている。

人間による海洋環境(三角江を含む)への物質またはエネルギーの直接的または間接的な導入であって、生物資源及び海洋生物に対する害、人の健康に対する危険、海洋活動(漁獲およびその他の適法な海洋の利用を含む)に対する障害、海水の水質を利用に適さなくすること、ならびに快適性の減殺のような有害な結果をもたらし、またはもたらす恐れのあるものをいう。

 国際海洋法裁判所は、海洋法に対する重大な問いに答える必要がある。「海洋法条約は、気候変動の促進要因や影響に言及するものとして理解され得るか? もしそうであるなら、同条約は、締約国がそれらに対してどのように対処することを求めているか?」という問いである。

 小島嶼国委員会の質問で問われていないことは、締約国がその義務を果たさない場合はどうなるかということである。その答えは小島嶼国にとって特に重要であり、彼らは、気候変動の影響に伴う損失と損害への対処に関する現在継続中の交渉に不満を抱いている。

 気候変動に関連する義務は、国連気候変動枠組条約パリ協定といった他の条約や規則において定められている。小島嶼国は、これらの義務を明確にするため、さまざまな裁判所に助言を求めている。

 国際司法裁判所は、2024年に、気候変動に関する義務についてより幅広い法的課題を検討する予定である。

 国際司法裁判所がこの別個の勧告的意見要請に小島嶼国委員会が参加することを承認したという事実は、国連の主要な司法機関が国際海洋法裁判所の意見を考慮に入れるつもりがあることを示唆している。また、最初に国際海洋法裁判所が海洋法に関する見解を述べ、大気汚染の責任を取ることについて国際法をより幅広く解釈する素地を作ると見込まれることも、注目すべき点である。

 小島嶼国による継続的圧力により、気候変動に対処する各国の義務に関するわれわれの理解が進んでいる。

エリシア・ハロウド‐コリブは、メルボルン大学で海洋ガバナンスの講師、リサーチフェロー。また、東フィンランド大学法科大学院の博士研究員。

マーガレット・ヤンは、メルボルン大学教授。