Climate Change and Conflict フォルカー・ベーゲ  |  2022年08月02日

太平洋島嶼国にとって最も重要な安全保障上の懸念は、中国ではなく気候変動

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 2022年7月半ばにフィジーのスバで開催された太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟国の首脳会議は、通常以上に地域を超えた国際的注目を浴びた。中国と米国の間で地政学的競争が高まっている時期の開催だったからである。また、2019年以来初めての対面による首脳会議でもあった。過去2年間、コロナ禍により対面会議を開催することができなかったのである。

 スバの会議で太平洋諸国の首脳たちは、外部勢力が繰り広げるゲームの単なる駒として扱われることを拒絶するという立場を明確にした。彼らは自信を持って自分たち自身の議題を追求した。そこで重視された問題や関心事は、そのような外部勢力の利益に必ずしも一致するものではない。その最たるものが、「気候変動は依然として、『ブルーパシフィック』が直面する単独で最大の存亡の脅威である」という首脳たちの声明である。その中で彼らは、地政学的及び戦略地政学的な考察根底にある、安全保障に対する従来の狭い理解を拒絶した。気候変動を地域安全保障というコンテクストの中心に置くにあたり、彼らは安全保障の概念を拡大して「非伝統的な安全保障問題」に焦点を当て、例えば食料安全保障や水の安全保障が太平洋地域における気候変動の影響でますます高まる脅威にさらされているという事実を指摘する。太平洋地域の人々は、勢力圏をめぐる戦略地政学的な反目より、海面上昇、サンゴ礁の死滅、破壊的な洪水、頻度と強度を増すサイクロンやその他の災害の方を気にかけているのである。

 スバのPIF会議で太平洋諸国の首脳たちは、太平洋地域の「人々の生活、安全保障、福祉や生態系を脅かす気候非常事態」を公式に宣言した。この宣言に続きPIF諸国の首脳たちは、「気候変動の法的帰結を明確にする国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見」を求めるよう国連総会に提起するというバヌアツ政府のイニシアチブも承認した。このイニシアチブの目的は、「気候変動の悪影響から現在および将来の世代の権利を保護する国際法に基づく各国の義務」についてICJの意見を得ることである。

 会議の大きな成果は、「ブルーパシフィック大陸のための2050年戦略(2050 Strategy for the Blue Pacific Continent)」である。これは、太平洋地域の平和と持続可能な開発のために最も不可欠であると見なされる相互に関連する七つの主要テーマ分野にまたがる10項目のコミットメントをまとめたものである。ここでも気候変動が突出した位置を占めており、その他の「平和と安全保障」、「資源と経済開発」、「人間中心の開発」、「海洋と環境」といったテーマ分野も、気候変動と密接に関連づけて扱われている。この文書は、「気候変動と海洋の関連性、海域、人権、女性や少女の権利、気候変動の被害を受ける人々の権利、食料と水の安全保障、災害、そして、移転、移住、立ち退きなど、気候変動や災害に関連した移動」にハイライトを当てている。

 さらに、同戦略は太平洋の人々が抱く「土地と海への深い文化的・精神的愛着」を強調し、気候変動に適応する努力の一環として太平洋地域のコミュニティーが回復力を構築しようとする場合、「文化的価値や伝統的知識」が貴重な資源となることを指摘している。同時に、この文書は、「ブルーパシフィック大陸全体の温室効果ガス排出量は世界の排出量の1%強に過ぎないのに、われわれは気候変動の悪影響の最前線にいる」と断言し、それにより大量排出する北半球の先進国の責任を指摘している。これに関連して、同戦略は「損失と損害」や「規模を拡大した、有効かつ持続可能な気候資金へのタイムリーなアクセス」の問題に特に注意を向けている。最後に、同戦略は、改めて気候変動を「太平洋地域の安全保障に対する単独で最大の脅威」と位置づけ、「人間の安全保障、経済安全保障、人道支援、環境安全保障、サイバーセキュリティー、国際犯罪を含む安全保障の拡大概念と、災害や気候変動への回復力を構築するための地域協力」を選択する。これは、「コミュニティーレベルと国家レベルの平和構築を基礎とする、より包摂的かつ革新的な地域安全保障アプローチ」への太平洋島嶼国の決意を表すものである。

 概していえば、スバ会議での「2050年戦略」、首脳会議共同声明、そこでの議論は、気候変動から注意を逸らすような地政学的・戦略地政学的競争への注目を太平洋諸国の首脳たちが拒否していることの表れである。ツバルのサイモン・コフェ外相は、会議の全体的な雰囲気を表現し、「われわれの視点から見れば、片や地域における影響力を争っている超大国があり、片や生存のために闘っているツバルのような国々がある。われわれは、全く考え方が異なるということだ」と述べた。

 従って、太平洋島嶼国の支持を得ようとする外部アクターは、地球温暖化の問題について、自分たちが言葉だけでなく本当に真剣で、信頼できるということを証明しなければならない。これは、オーストラリア(ニュージーランド同様PIF加盟国であるが、「先進」工業国という点で他のPIF加盟国とは著しく異なる)にも当てはまる。労働党のアンソニー・アルバニージー首相率いるオーストラリア新政権は、近隣の太平洋諸国との関係を修復し、太平洋の声に耳を傾けることを約束した。しかし、信頼を回復するために、オーストラリアは、国内の気候変動対策にもっと力を入れ、化石燃料を廃止し、新規石炭・ガスプロジェクトへの資金提供を中止する必要があるだろう。2030年までに温室効果ガスを43%削減するというオーストラリアの新たな気候目標を歓迎しつつも、太平洋諸国は、さらに多くを期待していることも明確にしている。その程度の小幅な削減では、地球の気温上昇を1.5℃、あるいは2℃以下に抑えるというパリ協定の目標は達成できないからである。オーストラリアのパートナーである太平洋諸国は、より多くを求め、より多くを必要とし、より多くに値するのである。

フォルカー・ベーゲは、戸田記念国際平和研究所の「気候変動と紛争」プログラムを担当する上級研究員である。ベーゲ博士は太平洋地域の平和構築とレジリエンス(回復力)について幅広く研究を行ってきた。彼の研究は、紛争後の平和構築、ハイブリッドな政治秩序と国家形成、非西洋型の紛争転換に向けたアプローチ、オセアニア地域における環境劣化と紛争に焦点を当てている。