Peace and Security in Northeast Asia 文正仁(ムン・ジョンイン)  |  2023年03月31日

和平仲介者として生まれ変わろうとしている中国 — 米国はどう対応するか?

 この記事は、2023年3月28日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。

 2023年2月21日、筆者は、中国公共外交協会と北京大学が共同開催した藍庁論壇(ランティン・フォーラム)にオンライン参加した(「藍庁」は「青い部屋」という意味で、中国外交部プレスセンターの会議室を指す)。

 フォーラムの基調講演者として登壇した中国の秦剛外相は、習近平国家主席が2022年4月のボアオ・アジア・フォーラムで提唱した「グローバル安全保障イニシアチブ」(GSI)に関するコンセプトペーパーから、協力における六つの中核概念と20の重点事項を提示した。秦は、このイニシアチブが世界の安全保障問題に対する中国の代替案であり、世界の紛争地域における問題解決の青写真であると強調した。

 GSIのコンセプトペーパーに記された六つの中核概念は、共通の、包括的で、協調的かつ持続可能な安全保障ビジョンを堅持し、各国の主権と領土保全を尊重するとともに、国連憲章の目的と原則を守ることを呼び掛けている。文書にはこのほか、自国の安全保障のために他国の安全保障を侵害せず、対話と協議を通して紛争を解決し、伝統的安全保障と非伝統的安全保障の両方における懸念に留意するという原則が盛り込まれている。

 コンセプトペーパーに挙げられた協力の重点事項としては、「主要国間の調整と健全な交流を促進する」「『核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならない』というコンセンサスを守る」「ウクライナ危機のようなホットスポット問題の政治的解決を支援する」「ASEAN中心の地域安全保障協力メカニズムを支援し、強化する」などがある。

 少し聞き覚えがないだろうか? 米国民主党の外交政策アプローチの根源にあるウッドロー・ウィルソン大統領のリベラル国際主義のビジョンを彷彿とさせる内容である。ジョー・バイデンの民主党政権は徹底した現実主義路線で中国への対抗措置を取っているが、一方の北京は、むしろリベラルなナラティブを採用することによって一線を画そうとしている。歴史の皮肉とはまさにこのことである!

 フォーラムで私は、中国のコンセプトペーパーについて二つの問題を提起した。第1は、国際規範と国際法という普遍的な考え方を基盤とするイニシアチブを中国独自のものとして提示するのは、恐らくよろしくないだろうという点。第2は、イニシアチブの実用性は限定的であるという点である。習近平は長年にわたり、アジア安全保障構想を含めこの種の提案を何度も行ってきたが、実行に移されたものは一つもない。今回の提案も違いはないのではないか?

 中国側のフォーラム参加者は、私の第1の論点には何もコメントしなかったが、第2の論点については回答し、具体的な措置が近いうちに講じられると約束した。

 その「具体的な措置」は、3月10日に明らかになった。中国がイランとサウジアラビアの協定を仲介したのである。北京で開かれた会合で、両国の国家安全保障責任者が国交の回復と2カ月以内の大使館再開に合意したという共同声明を発表した。両国の国交は、2016年にサウジ政府がシーア派聖職者を処刑して以来7年間断絶していた。

 スンニ派が多数派を占めるサウジアラビアとシーア派が多数派を占めるイランは、地域覇権をめぐる敵対的競争の一環として、イエメンやシリアといった場所で代理戦争を行ってきた。

 だからこそ、両国の2国間協定は中東の平和に向けた大きな一歩なのである。それはまた、1978年のキャンプ・デービッド合意以来中東和平の仲介者と自負してきた米国にとっては面白くない展開でもある。

 北京の動きは、中東だけにとどまらない。ウクライナ戦争勃発からちょうど1年経った2月24日、中国は、ウクライナ危機の政治的解決に関する12項目からなる和平案を発表した。和平案は、とりわけ、全ての国の主権尊重、戦闘の即時停止、和平協議の再開、人道危機の解決、一方的制裁措置の停止、戦後復興の促進などを呼びかけるもので、ウクライナ戦争においても和平仲介者と見なされたいという中国の野心を反映している。

 その目標に向けて、習近平は3月20日にロシアを訪問し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と首脳会談を行い、ウクライナとの意思疎通を維持すると述べた。

 しかし、領土の回復、戦争犯罪の訴追、戦後復興、あるいは賠償金の支払いに関する十分な議論がなされない限り、停戦の見込みはほとんどない。事実、習とプーチンの首脳会談は結局のところ、和平仲介よりも両国の戦略的協力関係の強化に重点を置くものとなった。

 とはいえ、国連はなすすべがなく、米国とEUは仲介役を果たすことができない状況で、北京は素早く仲介役を買って出たのである。北京は、戦闘停止や戦争終結への突破口は切り開けなかったかもしれないが、少なくともGSI外交の新たな側面を示した。

 中国の外交政策はしばしば「戦狼外交」と呼ばれる。外交官らの強硬かつ攻撃的な言動からつけられた呼び名である。

 しかし、バイデン政権がインド太平洋戦略と「価値観同盟」を中心とする連合を構築しようとする中で、北京は、世界中の平和と安定を仲介する外交政策を推進する機会をつかんだ。

 世界は、米国とその同盟国や友好国だけで成り立っているわけではなく、紛争や衝突は概して米国の影響圏外で発生している。だからこそ中国のGSI外交は、米国の外交的リーダーシップに対する重大な挑戦になりうるのである。

 これに触発され、米国が外交政策の新たなアイディアを編み出すことを期待したいところである。

文正仁(ムン・ジョンイン)は、韓国・延世大学名誉教授。文在寅前大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。 核不拡散・軍縮のためのアジア太平洋リーダーシップネットワーク(APLN)副会長、英文季刊誌「グローバル・アジア」編集長も務める。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。