Contemporary Peace Research and Practice ケネディ・グラハム  |  2021年09月18日

ANZUS締結70年: 今日、ニュージーランドは条約をどう見ているか?

Image: U.S. Secretary of Defense/Flickr

 この記事は、2021年9月10日に「Australian Outlook」に初出掲載されたものです。

 ANZUS(オーストラリア・ニュージーランド・アメリカ合衆国安全保障条約)が締結70年を迎えた今日、ニュージーランドは条約をどのように見ているだろうか? 政治的な意見は、事実上全くない。法的、戦略的、文化的な文脈では、答えはより複雑で微妙なニュアンスがある。

 9月1日、ANZUSに対するタスマン海を隔てたオーストラリアとニュージーランドの温度差が如実に表れた。オーストラリア議会では、首相が声明を発表した。ニュージーランドへの言及はほとんどなく、実質的には豪米の2国間同盟を称える内容である。

 ANZUSは、オーストラリアにとって国家安全保障の礎石であり、「われわれ」のインド太平洋地域における平和と安定の重要な柱であった。それは70年間にわたり、豪米間のきわめて重要な軍事、国家安全保障、情報協力を支えてきた。ANZUSは世代から世代へと受け継がれ、適応している。二つの国民は同じレンズを通して世界を見ている。彼らは同盟を刷新し、近代化することを再び誓約するべきである。今日まで両国を支えてきた、同じ勇気、胆力、ゆるぎない絆をもって、現在の戦略的環境という課題に対処するだろう。これからも、米国とオーストラリアの同盟に神の祝福を。

 アオテアロア・ニュージーランドでは、70周年を記念するものは何もなかった。首相の声明も、外相や防衛相の声明もなかった。しかし国防軍は同じ日、国内最高齢で110歳を目前に亡くなった退役軍人に敬意を表する声明を出した。彼の死去により、同じく第二次世界大戦を戦った退役軍人であり、同じ誕生日のビル・ミッチェルにバトンが渡された。両国の相違は如実であり、たくまざる隠喩を示すものとなった。かたや未来の称賛、かたや過去の追悼である。

 ある国が地域的自衛協定をどのように見るかは、その根底にある世界観、つまり20世紀に世界はどう統治されるべきだったか、21世紀にはどう統治され得るかという見方を反映している。選択肢はシンプルである。国によって違う点はあっても、基本的利益を共有する各国民からなるグローバルコミュニティーと見るか、あるいは、競合する国家目標の追求を共通の利益よりも重視する国家からなる国際社会と見るかである。合法的な武力行使と核兵器の保有という二つの問題が、国家の政策決定に違いをもたらしている。ANZUSは、それらが結び付く脅威に対する避雷針となってきた。

武力の行使

 何世紀にもわたる国家間の戦争と和平の後、20世紀に世界規模の国際組織が設立され、「合法的」武力と「非合法的」武力の区別によって理論上戦争を禁止する国際法が強化された。世界的集団安全保障は、1920年に始まり、1945年に確固たるものになった。

 しかし、国連憲章には二重の弱点がある。拒否権と集団的自衛権である。オーストラリアとニュージーランドは共同で拒否権に反対したが、大国、とりわけ米国によって押し切られた。国連憲章草案では当初、集団的武力行使のみを認めており、国家の個別的自衛権は自然法における固有の権利と見なされていた。後から第51条が盛り込まれたことにより、それが実証主義的な集団的自衛権へと変容したのである。

 これら二つの要素は、以来、グローバル・ガバナンスに影響を及ぼし、同じルール・マニュアルの中で安全保障を確保するための二つの戦略的方法を競わせることとなった。ひとつは世界的集団安全保障で、これは拒否権によって阻止される可能性がある。もうひとつは地域的自衛で、これは主観的正当化によって妨げられない。冷戦時代の封じ込め政策は、欧州、中央アジア、東南アジア、太平洋地域における地域的自衛協定をもたらした。その文言は国連憲章との整合性を確保するために慎重に策定され、その存在は安全保障理事会の無策を根拠に正当化された。しかし、非同盟運動の台頭とソ連崩壊を経て存続したのはNATOとANZUSのみであった。ANZUSは実質的に2国間条約として機能しており、米日、米韓の二国間条約と同様である。

 冷戦時代初期には、世界的集団安全保障と地域的自衛の間の緊張が本格化した。朝鮮戦争では、両サイドの国の軍事的関与が国連の承認により合法的に行われた。しかし、その後まもなく、英国(フランス、イスラエル)のエジプト侵攻を積極的に支持したことにより、どちらの側も国連の意向に反する立場になった。その後の10年間、これらの国々が国連の承認なしにベトナム戦争に軍事参加したことは、法的正当性よりも地域的自衛への政治的依存が大きいことを示していた。ANZUSはその背景にあったが、発動されることはなかった。

 2001年に米国で同時多発テロ事件が発生した際、オーストラリアはANZUSに明確に言及した。しかし、アフガニスタン侵攻は国連の承認を受け、NATOが作戦の主導権を握った。しかし、2003年に米国がイラクを侵攻し、オーストラリアが米国、英国、ポーランドとともに軍事的に関与した件は、国際法に対する違反であった。ニュージーランドは参加を拒否した。ANZUSは影も形もなかった。

核兵器

 冷戦時代の初期、オーストラリアとニュージーランドは、地域的自衛の戦略的ドクトリンの一環として米国の核兵器を使用する可能性に依存することを受け入れた。しかし、1970年代半ば、ニュージーランドは国連で南太平洋非核地帯を支援した際に、これに関する懸念を初めて示唆した。80年代半ばには両国とも太平洋非核地帯においてリーダーシップを発揮したが、自国領土内で核兵器搭載艦船および航空機の存在を禁止するかどうかについては相違があり、それをきっかけとしてニュージーランドは、1987年に国内法を厳格化した。いかなる国民も居住者も、国の領域内における核爆発装置の管理をほう助してはならない。公務員(閣僚)は、世界のどこにいてもそれをしてはならない。これは、10年間の収監を科される犯罪である。同法の実施に関して首相に助言を行う公的諮問委員会が、30年間にわたって活動を行っている。

 ニュージーランドは、30年間にわたって核搭載可能な艦船や航空機の入域を拒否してきた。最近では、米国の非開示政策にもかかわらず、米国の保証に対する「信頼度」が高まり、国家指導者らが彼らの入域を許可するようになった。1987年の法制の下で新たな争点となっているのは、米国の軍事機関の後援を受けた衛星ペイロードのマヒア半島からの打ち上げである。ワイホパイとタンギモアナにあるニュージーランドの情報収集施設は、同国情報機関によって運用されている。オーストラリアでは、パインギャップ基地が米国と共同で運用されている。

 僻地の小国が領内の核兵器を禁止していること以上に世界的に大きな意味を持っているのは、ニュージーランドが核抑止を自国防衛戦略とすることを明白に拒絶したことである。1985年、ニュージーランドは国連に対し、「抑止は、決して成功を証明することができない理論である。手遅れの場合は抑止が失敗したことを確信できるが、成功したという確証を得ることは絶対にできないというパラドックスが残る」と提言した。1988年、デビッド・ロンギ首相は、「われわれは、核抑止論の妥当性に同意せず、これを支持しない」と述べた。

 このように核兵器と核抑止戦略を拒絶したことから、米国は、1987年にANZUSに基づくニュージーランドとの協力を停止した。以来、ANZUSの年次会合は米豪の2国間になり、オーストラリアとニュージーランドの間ではそれとは別に、防衛関係緊密化協定に基づく防衛相会合(ANZDMM)が開かれている。米国とニュージーランドの2国間安全保障協力は、ウェリントン宣言(2010年)およびワシントン宣言(2012年)によって再構築された。しかし、ニュージーランドの歴代首相は自国の核兵器拒否を取り消すことなく、それは国家安全保障のアイデンティティーを象徴するものとなっている。より広範には、太平洋の地域安全保障協力は、人間の安全保障への現代的アプローチを反映したもので、ビケタワ宣言(2000年)およびボエ宣言(2018年)によってさらに強化されている。

 最近では、ニュージーランドはオーストラリアや米国とは別個にグローバル核軍縮政策を追求し続けており、2021年に発効した核兵器禁止条約の交渉で主導的な役割を果たしている。同条約の主要目的は、二つの重要な特色(不可逆的な廃絶、遵守の普遍性)とともに、米国とオーストラリアの反対を受けている。しかし、核兵器の違法性と廃絶は、いまや国際法となっている。それは、NPT第6条、そして1996年に国際司法裁判所が出した「将来的な全面禁止」を示唆する勧告的意見の両方を履行するものである。

 要するに、2つの国は世界的安全保障については質的に異なる見解を取っているが、通常の軍事協力ではほとんどの分野で順調に協力を行っている。ANZUSは、促進要因でもなければ、障害でもない。

ケネディ・グラハム博士は、ニュージーランド・グローバル研究センター(NZ Centre for Global Studies)の所長である。ニュージーランドの外交官、国会議員、国連職員、国際関係学の客員教授(欧州大学院大学)を歴任した。また、南太平洋非核地帯条約ニュージーランド代表団の一員である。“National Security Concepts of States: New Zealand” (Taylor & Francis, for UNIDIR)など5冊の書籍を執筆または編集している。