Peace and Security in Northeast Asia 文正仁(ムン・ジョンイン)  |  2025年01月22日

韓国の政治情勢に対する米国の3通りの見解

この記事は、2025年1月20日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載されたものです。

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、ワシントンの「お気に入り」であり、韓米同盟と韓米日3カ国協力の熱心な支持者だった。米国が主導する民主主義連合の最も忠実な支持者でもあった。

 だからこそ、尹が不当な戒厳令宣布によって韓国の憲法秩序を脅かしたことに、米国人は唖然としたのである。彼の行為とそれがもたらした政治危機に対する米国人の見解は、おおむね三つのグループに分かれる。

 バイデン政権に代表されるリベラルな国際主義者たちは、裏切られたかのような感情的な反応を示して、尹を厳しく批判している。

 尹政権の主要な後援者であったカート・キャンベル国務副長官は、戒厳令の解除後に真っ先に反応した一人であり、尹は状況を「ひどく見誤った」と批判した。

 ロイド・オースティン国防長官の韓国訪問が中止され、予定されていた韓米核協議グループ会合との机上演習が延期された。

 ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、尹の戒厳令宣布は「衝撃的」であり、「誤っている」と述べた。

 近頃離任したフィリップ・ゴールドバーグ前駐韓米国大使も、戒厳令宣布は起こって欲しくなかった不幸な事態だと述べたが、国会が投票によって戒厳令を解除し、尹の弾劾訴追案を可決したことに関して、韓国の堅牢な民主的手順を称賛した。

 また、米国の国会議員からも、尹に対する手厳しい批判が出ている。朝鮮半島における終戦宣言と平和条約を求める決議案を発議したアンディー・キム上院議員とブラッド・シャーマン下院議員のような民主党議員らは、戒厳令宣布が民主主義と法の支配だけでなく、米韓同盟をも損なったと述べた。

 彼らの原則に基づく姿勢と民主主義に置く価値を考えると、米国社会の主流をなす人々は戒厳令宣布を批判し、韓国の民主主義の強靭性を称賛しているといえる。

 それとは対照的にドナルド・トランプ大統領とその側近らは、尹が弾劾されて失職の危機に瀕しているにもかかわらず、この1カ月半の間、戒厳令宣布についてコメントしていない。

 だが、トランプの取引主義的な性格を考えると、これは十分予想できることだ。トランプは価値よりも国益を優先し、他国への不必要な内政干渉に反対している。

 シリアのバッシャール・アル・アサド政権が2024年12月に崩壊した際も、トランプは「これはわれわれの戦いではない」と言い、米国は「深入りするべきではない」と付け加えた。

 また、トランプが尹についてコメントしていないのは、2期目のトランプにとって韓国は外交政策上それほど優先順位が高くないということを示唆している。トランプは、ウラジーミル・プーチン、習近平、金正恩(キム・ジョンウン)のような強力な指導者と「ディール」を結ぶことを楽しんでいる。尹のような政治的に先行き不透明な指導者を気にかける理由はほとんどない。

 米国保守連合の議長であり、トランプの側近と伝えられるマット・シュラップは、すでに大統領の職務が停止されていた尹と12月14日に極秘会談を行ったといわれている。また、2016年の大統領選挙でトランプ陣営の選挙対策本部長を務めたポール・マナフォートも韓国を訪問し、大邱(テグ)市の洪準杓(ホン・ジュンピョ)市長や権盛東(クォン・ソンドン)院内代表など、尹の与党関係者と面会したと報じられている。

 しかし、トランプのリーダーシップ・スタイルを考えると、これらの人物の行動がそれほどの重要性を持つとは思えない。トランプは、韓国に対する米国の政策を独断で決定するだろう。

 最後に、米国には尹の戒厳令宣布を支持し、彼の弾劾に動いた政治勢力に異議を唱える者もいる。彼らは、いまだに冷戦時代の反共主義を支持する極右保守派である。

 なかでも最もよく知られているのは、最近米国下院の東アジア太平洋小委員会の委員長に任命された共和党のヨン・キム下院議員であろう。

 キムは金曜日の「朝鮮日報」のインタビューで、「弾劾に動いた勢力は、北朝鮮との融和政策や中国への追従を好んでいる。それは、朝鮮半島と地域全体の安定性にとって災いとなる可能性が高い」と述べた。また、これらの政治勢力は、彼女がインド太平洋の安全保障に不可欠と考えている韓米日3カ国のパートナーシップと韓米同盟を損なおうとしているとも主張した。

 かつてホワイトハウスの首席戦略官を務め、トランプのMAGA(「アメリカを再び偉大に」)運動を主導した人物の一人だったスティーブ・バノンは、中国が介入したという噂に懸念を表明した。バノンは、尹がデモと政治不安を理由として退陣した場合、その結果生じる権力の空白に中国が付け入り、韓米同盟を弱体化させる恐れがあると述べた。

 これらの人々は、韓国の極右保守派が掲げる「従北勢力を撲滅せよ」という運動にも共鳴している。

 要するに、米国社会はおおむね戒厳令宣布に批判的であり、憲法と法律に則って尹の弾劾手続きが進められることを歓迎している。トランプのアプローチは、韓国の政治情勢が片付き、次の指導者が舞台に上がるまで待つというものだ。

 しかし、問題は米国の冷戦期の反共主義者のような勢力である。そのような人々が韓国の「太極旗部隊」や他の極右勢力と国境を越えた連合を形成し、トランプに影響を及ぼすとともに韓国の政治に干渉してきたら、韓米関係に前代未聞の危機が訪れる恐れがあるということに留意するべきである。

文正仁(ムン・ジョンイン)は、延世大学James Laney特別教授。文在寅元大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。