Climate Change and Conflict ケイト・ヒギンス | 2023年11月03日
太平洋地域における「損失と損害」基金?
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かたや国際的に管理される気候資金があり、かたや小規模なコミュニティーがあるという状況で、太平洋地域のコミュニティーは、気候変動に起因する損害に対する支援にどうやってアクセスすることができるだろうか?
2022年にエジプトで開催されたCOP27では、太平洋諸国のような気候変動の「悪影響」に対して脆弱な国々のために「損失と損害」基金を設立するという合意がなされた。基金設立の提唱を主導した人々の中には、太平洋諸国のリーダーたちもいた。この基金は、災害対応、緩和、適応、気候「レジリエンス」のために太平洋諸国が受け取る国際援助に加えて設置される可能性がある。
損失と損害基金は何を支援し、どのように機能するのだろうか? 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)移行委員会はCOP28会議に先立ち、資金が何のためか、また、どのような方法で提供されるかを慎重に検討してきた。現時点では、報道によれば、交渉は行き詰まっており、基金がどのようなものになるかはかなり曖昧である。
何をもって「損失」とするかを誰が決めるかという問題は、緊張をはらんでいる。より裕福で炭素排出量が多い国が、金銭的な損失だけでなく、先祖代々の家の破壊にまで及ぶ損失を、どのように補償するか。土地や海は、金銭的価値だけでなく、関係性的、文化的、精神的価値も有しているため、損失を単に経済的観点のみから定義することはできない。これは、損失の補償という考え方が直面する大きなジレンマである。
しかし、「損害」は、恐らくより具体的な意味で定義することができるだろう。サイクロンのような極端な気象現象により引き起こされた損害や、地域の自給自足農民が依拠する農業システムの生産性低下に対する補償は、太平洋のコミュニティーが直面する気候不正義への対策に貢献できるだろう。さらに、サービスが不十分な都市部への移転を余儀なくされる人々など、気候変動に起因する移住に直面する人々への支援も広く必要となる。
従って、損失と損害基金がどのように機能するかという問題は、極めて重要である。
財源をどのように分配するか、制度的取り決め、提供方法といった問題は、現在、移行委員会によって検討されている。評論家たちは、この基金の仕組みについては、債務免除や税制など、さまざまな選択肢があると指摘している。とはいえ、国際社会が基金を支援するのであれば、採用するメカニズムとしては、おそらく既存の国際的な援助制度や仕組みが最も利便性が高いと思われる。
既存の国際援助構造による取り組みは、大きな課題を伴う。グローバルノースの開発援助機関は、自分たち自身のアジェンダ、枠組、能力に合わせて太平洋地域の現実を再構成する。そのため、支援が、それを必要とする人々にとって有効性の低い不適切なものになる恐れがある。
現在、太平洋地域への援助の大部分は、多国間組織または2国間の政府援助によるものである。多国間援助は多くの場合、個々の国でガバナンスがどのように機能する(べき)かという前提の上に成り立つグローバルな枠組みに基づいている。2国間援助は、援助提供国の国内問題、両国の政治的(地政学的)関係、また、増えつつある事例として営利企業(「管理請負業者」)を利用した援助実行などによって複雑化する。援助の政治問題化や民営化により、長期的な有効性よりも「クライアント」への短期的提供に焦点が当てられるため、画一的なアプローチは問題が多い。さらに、援助部門や気候資金は断片化しがちな性質があり、さまざまな援助提供組織や多国間組織が一つの地域で活動すると混乱や重複が生じる可能性がある。
援助受け入れ国である太平洋諸国の政府には、成果を出すことへの高い期待がかけられる。かたや国際的な資金源があり、かたや太平洋のコミュニティーがある。その中間に立つ太平洋諸国政府は、国内の政治指導者と世界のパートナーの競合する要求を調整すると同時に、自らの内部能力のかじ取りをしなければならない。資金提供者は多くの場合、当然のように国家とコミュニティーの関係がアクセスと正当性を備えていると考えているが、実際は必ずしもそうではない。必然的に、重大なボトルネックが存在する。
指定された受益者として、受領側のコミュニティーメンバーには、「協議」と「参加」が求められる。しかし、「協議」と「参加」は平等な条件で行われるわけではない。コミュニティーからのインプットは、既存の援助枠組みや政策に適合するよう、援助官僚主義のメカニズムを通して調整される。多くのコミュニティーメンバーにとって、援助の言葉遣いや官僚主義は近寄り難いもので、十分な情報を得た上で参加することが難しくなっている。
コミュニティーと一緒に仕事をする方法や、環境だけでなく、土地や海の風景に埋め込まれた社会、政治、生計システムに関する彼らの知識にアクセスする方法を理解するという点で、ギャップが存在する。意思決定の権限が援助提供者・受領者・受益者という関係性の中に留まる場合、全面的な見直しが必要である。必要な変化を起こすためには、一つの国連委員会がトップダウン方式の汎用的な枠組みをもう1組作るだけでは到底足りない。影響を受けたコミュニティーとの対話を通して生まれる見解や創造力が必要である。
損失と損害基金の適切なメカニズムを見いだすためには、政府だけでなく、コミュニティーとの情報やリソースのやり取りを促進することができるコミュニティーのリーダーや組織、市民社会、教会など、幅広い関係者の関与を得る必要がある。そのメカニズムは、太平洋のそれぞれの場所で、さらにはそれぞれの国の中でも同じものとはならないだろう。また、効果的なメカニズムを作るには、援助提供者が、余裕のないスケジュールや複雑な官僚主義的プロセスなどによって援助プロセスをコントロールしたいという衝動から一歩退く必要もある。援助提供者は、リスクに対する彼らの内在的な恐怖を手放す必要がある。
基金がどのように機能するかを策定する際には、援助提供に伴う現在の課題から学ぶことができる。
損失と損害基金は、影響を受けたコミュニティーにリソースを届ける機会である。それは、固定化した官僚主義的な援助構造の外で何かを行う好機となる。しかし、損失と損害への資金提供が、太平洋地域において気候変動により不釣り合いに影響を受けている人々に届くべきであるなら、真に必要とされる気候変動適応策は、気候資金をどのように提供するかに関するものである。
ケイト・ヒギンスは、太平洋地域に焦点をあてた平和構築、ガバナンス、コミュニティー開発、ジェンダー分野のコンサルタントである。