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気候変動と紛争

変化する気候における太平洋地域とその人々: 太平洋の知恵と“多面的関係性の安全保障”

2023年09月06日 - 08日

オーストラリア・キャンベラ

変化する気候における太平洋地域とその人々:

太平洋の知恵と“多面的関係性の安全保障”

2023年9月6日~8日

 近年、気候変動と安全保障の関連性は政策や研究において国際的な注目を集めています。国連の安保理や総会、そして多くの加盟国がこの問題を国際的視点、国家的視点、また人間の安全保障の視点から取り組んでいます。しかし、これらにおける主導的な議論が、気候変動の緩和と適応、紛争解決、平和に対して、その地域性や先住民の知恵、伝統を取り入れたアプローチも考慮に入れる必要性を認めたのはごく最近のことです。同時に、それと並行して、太平洋島嶼国の市民社会アクター(教会、NGO、地元コミュニティー組織)やこの地域の研究者、政策立案者によって、この問題に対する純粋に太平洋的な考え方が現れてきました。この新しい考え方は太平洋の人々が持つ伝統と土着の知恵に根ざした、多面的関係性を中心に据えるアプローチです。そこで、現在の気候安全保障の主流派と太平洋的アプローチで気候安全保障の関係性に取り組む人々の対話を促進する取り組みが始まりました。このワークショップは、そのような様々な思考をお互いに取り入れていくための対話に貢献しました。「マットを編む」という太平洋の比喩は、こうした試みにふさわしい表現です。

 このワークショップには、太平洋島嶼国、ニュージーランド、オーストラレーシアの研究者、実務家、政策立案者が参加し、情報共有、意見交換、対話を行いました。開催地にはキャンベラが選ばれましたが、これはオーストラリアの政府やシンクタンク、NGOの代表者、気候変動と安全保障(および開発と移住)分野で活躍する研究者と、太平洋諸島の研究者の対話の機会を提供するためです。またオーストラリア政府は気候変動・紛争・安全保障の分野においてファースト・ネーション外交政策を新たに採用しましたが、この政策では何が達成できるのか、また従来の気候安全保障の理解とどのように整合するのかを議論する機会にもなりました。さらにオーストラリアとニュージーランドを含む太平洋地域のパートナー諸国は、気候安全保障の分野での協力可能な共通点を模索しました。2026年にCOP31の共同開催を予定している通り、気候変動は非常に重要なテーマです。

 このワークショップでは、太平洋先住民の伝統的知識や太平洋的アプローチは政策・研究・実践における最優先の事項と位置付けました。初めに、気候変動、災害、複合的緊急事態、紛争、安全保障といった問題に対処する太平洋的アプローチについて発表がありました。その中では太平洋の人々が考えるリレーショナリティー(多面的関係性)と精神性(fenua<フェヌア>とva<ヴァ>-場所と空間-、それらと多面的関係性の安全保障との関連性を含む)、場所の(非)居住性、気候変動の緊急事態の影響に直面したコミュニティーの(非)移動性、環太平洋諸国の先住民、特にオーストラリアのアボリジニとトレス海峡諸島民、アオテアロア(ニュージーランド)のマオリの経験と知識などが紹介されました。

 今後の課題には、太平洋文化の関係性の存在論に根ざし、紛争に配慮した平和的な気候変動適応に対応する太平洋的フレームワークを開発すること、太平洋の知恵、知識や実践を州や地域レベルの気候・安全保障・開発政策に反映させること、またワークショップで発表された“西洋”、特にオーストラリアの枠組みや政策とどのように整合させるか等があります。

 さまざまな伝統的思考や実践分野を背景とする利害関係者が抱く懸念やアプローチの、相互理解を深めることがこのワークショップの目的でした。より良い相互理解という基盤があれば、異なるアプローチの統合に向けた選択肢を話し合い(つまり“マットを編む”)、差異を超えた協力を始めることができます。 このワークショップは、戸田記念国際平和研究所とAustralian National University Pacific Institute(オーストラリア国立大学太平洋研究所)が共催し、International Organisation for Migration/Suva(国際移住機関/スバ)、戸田平和研究所のパートナー組織であるConciliation Resources(コンシリエーション・リソーシズ)、太平洋地域パートナーであるPacific Conference of Churches(太平洋教会会議)、Pacific Theological College(太平洋神学大学)、Transcend Oceania(トランセンド・オセアニア)、Pacific Centre for Peacebuilding(太平洋平和構築センター)が後援しました。

 ワークショップの報告書は後日掲載予定です。

 

 「ラグーンよ、また会いましょう」 ~Bedi Racule(ベディ・ラキューレ)の詩

Image: Willyam Bradberry/shutterstock.com