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協調的安全保障、軍備管理と軍縮

「リベラルな国際秩序の行方――再構築か、代替か?」

2023年05月21日 - 23日

東京

戸田記念国際平和研究所 政策リトリート

「リベラルな国際秩序の行方――再構築か、代替か?」

2023年05月21日~23日

東京

 世界情勢とグローバル・ガバナンスに関する諸問題を巡り、新たな研究方向を特定するため、戸田平和研究所の国際政策リトリート会議が2023年5月21日~23日、東京で開催されました。これには、世界各地から学者やNGO関係者など16名の専門家が参加しました。

 ここ数年、リベラルな国際秩序が崩壊する可能性について専門家が言及してきました。世界情勢の重心がアジア太平洋へとシフトし、中国の飛躍的な台頭が続くなか、西側の大国は中国中心主義的な特徴を有するかもしれない新たな秩序に適応する能力と意欲はあるのか、という疑問が浮上しています。同時にインド太平洋が重視されるようになり、インドの大国としての台頭が際立つようにもなっています。

 これらの勢力図の変化は、西側のリベラルな民主主義国家、自由主義市場経済圏、アングロスフィア(英語圏諸国)が優位性を持たない可能性のある世界秩序が現れる兆候とも見られています。2022年2月にはロシアによるウクライナ侵攻が起こり、さらに台湾、南シナ海、朝鮮半島をめぐる論争が高まるなか、ヨーロッパおよびアジアでは安全保障体制についての議論が注目を集めています。こうした動きは、国際的な軍備管理秩序の崩壊、グローバル機構および地域機構の部分的な消滅といったことと同時に起きています。

 その一方で、国際機関にはパンデミックや気候変動、新たな世界の安全保障課題を管理する能力が十分に備わっていないように思われます。「対立」から「より望ましい未来」に向けて歴史の弧を曲げるためには、どのような新しい規範や政策措置、制度的な変化が必要なのでしょうか。

 会議では、いくつかの主要テーマが話し合われました。その一つとして、1945年以降の国際秩序の崩壊を背景とした勢力図の変化の検証が行われました。われわれには国際秩序の変化を予測する分析手段はありませんが、時の主役(アクター)や問題は変化しており、その変化を管理する制度的な取り決めも変化せざるを得ないことは明らかです。

 今日、国際秩序が管理しなければならない問題は、より複雑で相互に関連しています。例えば、安全保障の質の変化(気候変動により人間の安全保障も含まれるようになる)、拡大する不公平、人種差別、軍備管理の課題、民主主義の綻び、分極化の拡大などです。

 グローバル・ガバナンスとグローバルな規範の変化において、独自のアプローチを行うアクターとしてのグローバル・サウスの台頭は、著しく大きな影響力を持っています。「効果的な多国間主義に関するハイレベル諮問委員会」は、国連未来サミットのために詳細な報告書を作成し、その中で長期的な未来についての議論が必要となる六つの規範の転換を提起しました。

 過去を思い起こさせるような形の国家主権が復活しています。われわれは領土紛争の時代に戻っています。国際戦争はもはや過去のものとは思われていません。国家は、特にパンデミックという文脈では、強く権威を主張しています。ポピュリズムとナショナリズムが世界に蔓延しています。

 この政策リトリートでは、国際秩序の基礎となる規範についてのコンセンサスが維持されること、また、人間のニーズ、尊厳、人権の普遍性の認識に裏打ちされた新たな規範を作ることの必要性が示されました。同時に、統治の形態や規範の違いを互いに認識し、相互の尊敬を保ちながら多元主義的なアプローチで生きることを受け入れることが賢明です。ルールに基づく国際秩序は必要ですが、公平性、尊厳、寛容、人間が中心のアプローチ、すべての生けるものに対する配慮の倫理という原則に基づくものでなければなりません。

 この政策リトリートの報告書は、戸田平和研究所の政策提言として掲載される予定です。