戸田記念国際平和研究所は2018年3月20日、「米国政府の核戦略指針『核態勢見直し(NPR)』をめぐって」と題する研究会議を都内の同研究所で開催しました。基調講演を行ったハーバード大学ベルファー科学・国際問題研究センターのスティーブン・ミラー教授は、2018年2月にトランプ政権が発表した「核態勢見直し」が東アジアおよび世界の安全保障環境に与える影響について概説しました。この会議は戸田記念国際平和研究所の新オフィスで行われ、国内外の著名な学術関係者や政策担当者が参加しました。
ミラー教授は、トランプ政権の2018年「核態勢見直し」と2010年にオバマ大統領が発表した「核態勢見直し」には多くの共通点がある一方で、前向きではない相違点がいくつかあると論じました。オバマ政権の「核態勢見直し」は同大統領のプラハ演説の主張を軸としている一方、政権内の様々な省の専門家によって執筆されたトランプ大統領の「核態勢見直し」には、核政策と戦略核の三本柱(①大陸間弾道ミサイル<ICBM>②潜水艦発射弾道ミサイル<SLBM>③戦略爆撃機)の有用性に対する大統領の混乱した認識が反映されていると指摘。核兵器に関するトランプ大統領の混乱した発言、包括的核実験禁止条約(CTBT)に対するあからさまな非難、イランと北朝鮮に対する敵意に満ちた言葉、そして世界的な安全保障専門家からの助言に対する無理解は、2018年「核態勢見直し」において議論を呼ぶような政策目標を生み出した、と述べました。
ミラー教授は、2018年「核態勢見直し」には大きく次の4つの論点があると述べました。
1.ロシアと中国をならず者国家とみなし、この国々のために国際安全保障環境は脅威にさらされていると考えている
2.抑止論の重要性を強く主張し、核兵器の先行使用が正当化され得る不測の事態が少なからずあるとしている
3.(オバマ大統領が始めた)核兵器近代化への支援を拡充するとし、低威力兵器と長距離巡行ミサイル(LRSO)の開発は戦略的に有用であり得ると主張している
4.新戦略兵器削減条約(新START)、イラン核合意(包括的共同行動計画(JCPOA))およびCTBTなどの既存の軍備管理や軍縮に関する協定への明らかな敵意がある。
また、軍備管理に対する否定的な見方を正当化する理由として、ロシアによる中距離核戦力全廃条約(INF)やその他の協定違反をあげています。
オバマ氏の姿勢とは対照的に、トランプ政権の「核態勢見直し」は、これまでの軍備管理と軍縮への取り組みを台無しにし、核不拡散と軍備管理における米国のリーダーシップを損なうものです。この「核態勢見直し」は、レーガン大統領とゴルバチョフ大統領が築いた軍縮の歩みとは対極にあるもので、核戦争に勝つことができ、特定の状況下では核戦争をするべきだと主張しています。この2010年のオバマ政権下の「核態勢見直し」からの大きな逸脱は、軍備管理と軍縮の専門家を憂慮させています。
スティーブン・ミラー教授:ハーバード大学ベルファーセンター国際安全保障プログラムディレクターおよび「International Security」誌編集長。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)元上級研究員。マサチューセッツ工科大学(MIT)では「防衛・軍備管理研究」を講義。アメリカ芸術科学アカデミーのフェロー、同アカデミー国際安全保障研究委員会(CISS)共同議長、米国パグウォッシュ委員会共同議長、パグウォッシュ会議国際評議員を務める。