戸田記念国際平和研究所は、2018年2月1日、ノルウェー国際問題研究所、ニュージーランド・オタゴ大学国立平和紛争研究所との共催で、「北東アジアにおける平和の構築――朝鮮半島における危機管理とその転換」をテーマとする国際会議を、東京ガーデンテラスの「紀尾井カンファレンス」にて開催しました。
この国際会議は2つのセッションで構成され、第1セッションは、「北東アジアにおける安全保障の脅威への対処」、第2セッションは、「朝鮮半島における危機管理とその転換」に焦点を当てて行われました。この2つのセッションには、中国、日本、アメリカの著名な大学および研究機関から、地域研究の専門家、政策担当者らがパネリストとして登壇しました。
この会議の目的は、地政学的不安定性と混乱の要因を明らかにするとともに、北朝鮮の核兵器開発によってもたらされた脅威に対して、外交による対応を妨げている諸問題を分析することにありました。
第1セッションでは、現在の冷え切った日本と中国の二国間関係ならびに地域内での諸国間関係について、日中双方の対照的な見方を取り上げました。親密で誠実な日中関係の重要性について合意するとともに、両国間に良好なコミュニケーションを促進する地域的安全保障の枠組みが欠落していることについて、たびたび言及がなされました。
第2セッションでは、この地域における核の脅威に焦点を当て、北朝鮮の核兵器およびミサイル開発によってもたらされた諸問題に対して、交渉による解決を達成するための前提条件を探求しました。北朝鮮を核保有国として受け入れるかどうかについては、様々な見解が述べられました。
米国は、北朝鮮の崩壊、体制転換、朝鮮半島の性急な統一、北緯38度線を越境した米軍の展開(いわゆる「4つのNO」)を求めることはしません。と同時に、米国、中国、韓国、日本は、非核化への圧力をかけるために、北朝鮮がそれを深刻な事態とみなしている証拠はほとんどないけれども、北朝鮮に対して経済制裁を課しています。それとは対照的に、この経済制裁のために、北朝鮮が南北間での対話再開に応じる証拠はほとんど皆無です。米国およびその同盟国による、交渉の前提条件としての非核化の主張は、予防外交に望ましい環境をもたらさないばかりか、北朝鮮が核開発能力の増強から豊かな経済発展へ政策転換する上で、何の支援にもならないでしょう。
前提条件なしに交渉を行う意思がない限り、北朝鮮を巻き込んだ偶発的戦争の危機は継続します。現時点において、米国、韓国、日本の間には、それぞれの優先順位に関して根本的な相違があります。米国および日本は、北朝鮮に対する最大限の圧力、経済制裁、防衛、抑止に焦点を当てたいと望んでいる一方で、韓国は制裁、防衛、抑止は、まず対話の空間を作り出した後に検討するべきものと考えています。
パネリストはまた、いくつかの明るい兆しを指摘し、平昌オリンピック開催によってつくられた絶好の機会を生かしたいとの希望が述べられました。特に、北朝鮮の核兵器による挑発に対して弁解の余地を与えないために、米国と韓国が合同軍事演習を延期することは重要です。
加えて、北朝鮮の行動を検証可能な形で改めさせる手段として行っている、最大限の圧力政策の終了および経済制裁の解除のタイミングについても、もっと議論を行う必要があります。核やミサイル発射実験を一時停止すれば、その見返りとして、技術的・人道的支援を行うというような、北朝鮮に前向きな行動を促す動機付けについては、既に数多くの議論があるところです。
経済制裁、抑止、他の圧力政策の相対的有用性に加えて、潜在的な「ソフト・パワー」政策もまた、日本の役割として特に焦点が当てられました。他には、北東アジア非核兵器地帯の可能性にも言及がありました。それは、朝鮮半島の非核化、日韓との国交正常化、ならびに両国への消極的安全保証を伴う米朝平和条約の締結を含むものです。
あるパネリストは、北朝鮮に対して体制保証と交換に非核化を求めることになるけれども、包括的和解の可能性もあると提案しました。ただしこのシナリオを追求することは、日本と韓国が、中国とロシアからの消極的安全保証を想定した核の傘から離脱することを意味しています。
この会議は最後に、様々な対話の枠組みに関する利点と欠点ついて議論を行い、終了しました。米朝直接対話にいくらかの比重を置いた、新たな六者協議再開の考えについては、まだぬぐいきれない疑念があります。
会議プログラム
第1セッション
「北東アジアにおける安全保障の脅威への対処」
進行役: | ケビン・クレメンツ(戸田記念国際平和研究所所長) |
パネリスト: | 高原明生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、添谷芳秀(慶應義塾大学教授)、ディングリ・シェン(沈丁立、復旦大学国際学部副学部長、核軍縮賢人会議委員)、ユン・スン(米スティムソンセンター研究員) |
ディスカッサント: | 猪口孝(桜美林大学特別招聘教授)、鈴木達治郎(長崎大学教授、核兵器廃絶研究センター長) |
第2セッション
「朝鮮半島における危機管理とその転換」
進行役: | スベレ・ルードガルド(戸田記念国際平和研究所上級研究員) |
パネリスト: | ジョセフ・ユン(米国国務省北朝鮮政策特別代表)、阿部信泰(元国連事務次長、外務省参与)、道下徳成(政策研究大学院大学教授)、トン・ジャオ(カーネギー国際平和財団研究員(中国核政策)) |
ディスカッサント: | 太田昌克(共同通信編集・論説委員)、植田隆子(国際基督教大学教授) |
この会議は様々なメディアにより報道されました。
以下はその一覧です。