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総合研究会議
「激動する現代世界における地球的平和への挑戦」

2017年03月28日

東京(日本)

戸田記念国際平和研究所とニュージーランドのオタゴ大学国立平和紛争研究所は3月27~28日、総合研究会議「激動する現代世界における地球的平和への挑戦」を東京で開催しました。この会議には、新世界秩序における安定と安全保障に関心を寄せる国際的なシンクタンクや市民社会組織のリーダーたちが参加しました。

21世紀の北東アジアおよび世界のその他の地域は、ナショナリズムの高まり、不平等の拡大、政治プロセスからの周縁化や疎外によって引き起こされる複数の課題に直面しています。それが2016年に最も明らかに現れた出来事は、英国の欧州連合(EU)離脱の決定と、ドナルド・トランプの米国大統領当選です。予測不可能ではあっても、トランプは世界最強の核兵器に責任を持つ立場にあります。米軍の軍事費予算の540億ドル増額を打ち出していますが、このうち11%が核兵器の近代化と拡充を目的としています。

世界について、参加者は皆、重大で地政学的な予測不可能性の時代に突入しているとの考えで一致しました。ドナルド・トランプの当選は要因の一つですが、根本的な原因としては、国民と政府との間の社会契約の破綻などがあり、これをスティムソン・センターのブライアン・フィンレーは「不平等と絶望感」をいっそう感じると特徴づけています。

会議参加者からは、世界の紛争と脆弱性の原因に取り組む創造的な機会について以下のような意見が述べられました。

  • 平和構築における数十年にわたる取り組みは、確固たる実績をもたらした。
  • 紛争に敏感な企業や市民社会のアクター、進歩的な国々は、競争ではなく協力による安全保障パラダイムにコミットしていることで、いっそう好ましい力学を生みだすことができる。
  • 国連やEUのレベルでの政策コミットメントは、各国政府と相まって、紛争予防と平和構築を中心課題とする方向にシフトしている。
  • 平和構築分野における協力、連合、連携の強まる傾向。
  • これまで政治的に積極的ではなかった米国の市民が、いまではいっそう多く参加し、動員され、抵抗している。

核兵器について専門家たちは、アジアの核保有国が備蓄を拡大しており、核拡散防止条約が大きな重圧下にあることで一致し、核禁止条約の締結をめざす国連の取り組みを支援する必要性を強調しました。オーストラリア国立大学(ANU)核不拡散・軍縮センターのラメッシュ・タクールは「世界は核兵器を非難、削減、禁止、検証して廃絶することを通じて、核兵器からの安全を確保する必要がある」と主張しました。会議では21世紀の安全保障をめぐる討論で、平和構築のアプローチについて、ハードパワーからソフトパワーへ、強制的なものから協力的なものへ、受動的なものから積極的なものへと見直す必要性があることを確認しました。

会議プログラム

第1セッション テーマ「ブレクジット後(post-Brexit)、トランプ誕生後(post-Trump)、ポスト真実(post-Truth)時代の世界情勢」 パネリスト: ブライアン・フィンレー(スティムソン・センター会長)、ジョセフ・ヒューイット(USIP副所長)、ロジャー・マーク・デ・ソウザ(ウィルソン・センター研究部長)、スタイン・トネソン(ウプサラ大学教授)、ヒュー・マイアル(ケント大学名誉教授)、ジム・ケイソン(FCNL副事務総長)

第2セッションテーマ「試練の時代における協調的安全保障の原則」パネリスト: ラメッシュ・タクール(オーストラリア国立大学教授)、スベレ・ルードガルド(ノルウェー国際問題研究所上級研究員)、太田昌克(共同通信)、リサ・シャーク(東メノナイト大学教授)

第3セッション テーマ「地政学的予測不可能性への対応と積極的・創造的手段による平和の構築」パネリスト: シャミール・イドリス(SFCG会長)、ポーラ・グリーン(SIT大学院教授)、ダイアナ・フランシス(紛争解決コンサルタント)、テレサ・デュマシー(CR学習政策長)

パネリストの発言全文

ケビン・クレメンツ(戸田記念国際平和研究所所長)

「私たちは今、世界的に極度の不安定さと予測不可能性の時代を生きています。こうした不穏な状況は、衝動的で予測不可能な大統領が米国で選出されたことと、英国の欧州連合(EU)からの離脱が僅差の過半数で決定されたことによっていっそう悪化しています。どちらの出来事も、欧州や北米をはじめとする世界各地での政治的な不安や民主政治からの疎外感の広がりを示すものです。実際、欧米の民主主義的な取り組みとそれを支える新自由主義的な基盤は、極めて深刻な脅威にさらされています。粗野なナショナリズムは世界主義に異議を唱え、軍国主義はまたしても予防外交と紛争予防を打ち砕いています。こうしたことは、紛争の平和的な解決や、永続的で安定した平和の条件を創出する方法について、私たちが過去50年の間に学んだ教訓と矛盾しています。好循環を生み出して悪循環に取って代わる方法を考える上で、反動的な政治を避け、恐怖の政治に異議を唱え、権威主義的な指導モデルを協調的で統合的なものに入れ替えることが不可欠です。こうした点すべてにおいて、悲観論やシニシズムに屈せず、過去50年にわたって多くの社会的、経済的、政治的な進歩をもたらしてきた前向きな力学を足場とすることが重要です」

スタイン・トネソン

「東アジアの平和は、集団的安全保障の地域的枠組みがないことで、脅威にさらされています。その脅威は勢力図に変化が起きているためで、中国の台頭と、米国で国力衰退の可能性を自覚して懸念が広がっていることが背景にあります。また、ミサイル、船舶、潜水艦、航空機の武器拡散があるためで、北朝鮮が核抑止力を獲得しようとしていることもあります。さらに、東アジアのいくつかの国々でナショナリズム、国内の不安定さ、権威主義が高まりを見せているためです…。そして特に、トランプ米政権が追求する外交・安全保障政策の著しい不確実性があるためです」 全文を読む

ブライアン・フィンレー

 「英国のEU離脱、極右の台頭、先週ロンドンで起きたようなテロ事件、ドナルド・トランプの当選――これらはしばしば、世界が危機に陥っていることを警告する兆候と見なされています。確かに、これらの点は現状に大きな混乱をもたらしています。しかし、こうした現象には多くの場合、もっともな要因があり、私はそれへの理解を深めることを提案したいと思います。それは、不平等と絶望感の高まりだと私は考えています」 全文を読む

ジョセフ・ヒューイット

「私たちはそもそも、暴力的な過激主義を助長するいっそう広範囲の要因(アイデンティティー・グループの周縁化、包摂的な経済的機会の欠如、説明責任を果たさない腐敗した統治機関、持続的な和解プロセスの必要性)に取り組む必要性を見過ごすわけにはいかないのです。アフガニスタン、イラク、イエメン、ソマリアなどの場所で、こうしたいっそう広範な目標を掲げてうまくいかなければ、遠い未来に向け、新しい暴力過激主義の波に直面し続けることになるでしょう」 全文を読む

ヒュー・マイアル

「英国内では…、英国のEU離脱は、国会と各地方分権政府との間の溝を広げ、北アイルランド和平合意の安定性を脅かす可能性があります。多文化主義を否定し、外国人排斥政策を支持する少数意見を勢いづかせました。外交政策面で、英国の行方は不透明です。トランプの政策だとしても米国の政策に従来のように支持をするのか、EUを離脱して加盟国でなくなっても、加盟国と緊密であり続けるのか、どちらか分からないのです」 全文を読む

ロジャー・マーク・デ・ソウザ

「気候は脆弱性とリスクとの間で相互に作用します。複雑な状況のかじ取りをすることの重要性を強調したいと思います。状況を単純化するより、複雑化する要因の方が多く、複雑に混ざり合ったリスクもあります。それは脅威を何倍にも増加させる要因です。環境上の懸念は、新たな紛争力学を作り出し、ストレスをいっそう増やす要因になり得ます」 全文を読む

ラメッシュ・タクール

「核政策の目標は、①制限して封じ込める、②非合法化する、③削減する、④禁止する、⑤廃絶する、に要約できます。この五つの課題の中で、核兵器保有国だけが、第1、第3、第5の目標に取り組むことができます。しかし、国際社会の圧倒的多数を占める非核兵器国は、第2(非合法化)と第4(禁止)の目標を自ら追求することができます。それは、いずれも国際的な規範(一般的な行動様式とは区別されたものとしての基準で、実際どうであるかにかかわらず、あるべき基準)を肯定するものとして、また、他の三つの目標を追求するよう保有国に圧力をかける極めて数少ない手段の一つとしてです。ここで、禁止条約の出番となります」 全文を読む

スベレ・ルードガルド

「私はミサイル防衛に反対していますが、これは相互確証破壊(MAD)を支持するからではありません。MADは多くの意味を持つ略語です。相互確証破壊は、その意味で経験にそぐわないものです。というのも、無防備が一番の防御だという主張だからです。私はミサイル防衛に反対していますが、それは軍備増強を促すからです。他国は報復能力を懸念して対抗措置を取り、そうした計画が他分野でもたらす可能性のあるあらゆる技術面の飛躍的進歩について、懸念を持っています」 全文を読む

太田昌克

「核禁止条約交渉で日本政府はなぜ土壇場まで優柔不断な態度を取ったのでしょうか。日本政府は核禁止条約そのものに反対です。この条約は、日本が半世紀以上にわたって依存してきた安全保障の条件を損なうことになります…。外務省のある担当者によれば、安倍はこの問題でトランプとの強固な関係を損ないたくないとのことです」 全文を読む

ポーラ・グリーン

「トランプが労働者階級の有権者に与えたのは、票だけでなく、文化という意味でも、自分たちが重要だという感覚でした。米国の有権者のこの層は、米国がもたらすパイの分け前を何十年も列に並んで待っていると感じています。アフリカ系米国人の大統領が当選して以来、そうした層の人たちはマイノリティや移民がその列に割り込んできたと感じており、更なる疎外感と経済的な出世への諦めを抱いています。平和構築に携わる私たちの課題は、現実の社会的、経済的、政治的な格差を超えて共通点を見いだし、新たな提携関係を構築することです。これは私たちにとって、極めて難しい課題かもしれません」 全文を読む

テレサ・デュマシー

「今日、平和構築の分野は、平和構築が戦争に対して正しく実行可能な対応であることを示す概観と能力の両方を持ち合わせています。各国政府は積極的にこの分野に接触し、枠組みについての見解や助言を求めています。今こそ平和構築の好機です。平和構築の分野には、極めて暴力的で不安定な状況(中央アフリカ共和国、シリア)の下でも、現場でどのような取り組みがなされているかを学び共有する機会とその必要性の両方があります。また、平和構築に携わる者が長年にわたって築き上げた既存の取り組みから、成功と失敗の両面について学ぶのも同様です」 全文を読む

ダイアナ・フランシス

「私たちは極めて不安定と思われる時期に世界の予測不可能性について議論してきましたが、人生とは常に予測不可能であると心にとどめておくと良いでしょう。私たちは完全に安心できる状況にもありません。いずれは死を迎え、それゆえにか弱い存在です。だからこそ、私たちは協力して最善を尽くすのです」 全文を読む